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「……」

「……」

しばらく続いた沈黙の後の言葉は……。

「……いいぜ」

「え?」

「付き合ってやっても、いいぜ」

「え、え、え?」

 私は、予期せぬ藤田君の言葉に、目をぱちくりさせるだけだった。

「えっと、あの、その……」

「どうした、嫌か?」

「いや、そうじゃなくて……」

 私は深呼吸をすると、何とか頭の中を整理した。

「藤田君、私は本気で言ってるのよ」

 まず、藤田君はきっと私の言ったことを冗談と受け止めてるのだろうと思った。

「分かってるよ。そんな深刻そうな顔で冗談いうやつはいないだろう」

「だったら……分かってるなら、何でふってくれないの!」

 私は、必死だった。それを私がちゃんと理解しようと。

「私、保科さんにひどいことしたのよ。それは藤田君だって知ってるじゃない!」

「昔のことは昔のことだ。それに、反省してるんだろ?」

「やめてよ、藤田君。同情ならやめて。よけい私が惨めじゃない!」

「……同情だし」

「え?」

「そう、こうやってオーケーするのは同情だ」

 もう、私には何が何だかわからなかった。藤田君が、私に同情? この場面でそんなヒドイこと、 藤田君はしないはずだ。

「だから同情なんて……」

「俺の話も聞いてくれ。吉井、お前、いつから俺のことが好きなんだ」

「……藤田君に、怒鳴られてから、その次の日……」

「……苦しかったんだろ?」

「え?」

「好きなやつが出来た。でも、そいつに怒鳴られたばかり。しかも、その言い争いの理由は自分に 責任がある。苦しい恋だわな」

 そう、だから、私は罰だと思っていた。

「……罰だったのよ、保科さんにあんなことした」

「……それが罰かどうかは知らない。だけど、俺は目の前で苦しんでる女の子をほっとけないんだ」

「だったら!」

 藤田君は、もっと残酷ではないか。

「だったら、私を楽にするためにふってよ。そしたら、私は罰から解放されるのに!」

「……本当に、そう思うのか?」

 藤田君の言葉は、私が見ようとしなかった部分をついてきていた。

「恋は罰なんかじゃ生まれない」

「……」

 罰だったらよかったのに。

 それは、罪に対する罰だったらよかったのに。

 私は叫んだ。

「それ以外でどうやって私を納得させればよかったのよ!」

 それが、私の本当の恋でなければ、こんなにも辛くなかったのに!

「藤田君に嫌われてる。でも、私は藤田君が好き。そんなバカらしい恋を、何でわざわざや らなくちゃならないのよ!」

 罰だと思う以外、それを納得する方法は見つからなかった。

「本気なのか?」

「そうよ、本気よ。もう藤田君が好きで好きでたまらないのに、何でこんな状況ではじめなくちゃ ならないのよ! 私が悪いことしたから? でも、そうじゃなかったら……」

 私は、もう涙で声が出せそうになかった。

「もしそうじゃなかったら、悲しすぎるじゃない、そんな恋……」

「……もう、いいんだ。いいんだよ、吉井」

 私は、最後の力を振り絞った。

「いいのよ、藤田君。私よりもっとかわいい子ぐらい沢山いるでしょ。私は、運が悪かったの。 だから、気にしないで」

「……だから」

 藤田君はあきれた声で言った。

「付き合うって言ってるだろ」

「だから……そんなわけ……」

 は?

 私が顔をあげると、藤田君は私をじっと見ていた。

「吉井が苦しんでるのを助けてやりたい。それじゃあ、付き合う理由にならないのか?」

「……人が良すぎるよ、藤田君」

「いや、ここは『守ってやりたい』男の心理をついたお前の勝ちさ」

「……本当に、いいの?」

「吉井は嫌か?」

「そんなわけ……!」

 もう、我慢できなかった。私は藤田君に抱きついた。

「お、おい、吉井、俺達まだ早いって」

 藤田君の少し場違いが冗談に、私は泣き笑いながら答えた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「いいっていいて、まあ、これぐらいは俺も役得ってもんだろ」

 藤田君のそんな普通に接してくれる心使いがうれしくて、私はまた泣いた。

 罰は、私を救ってくれたのか?

 そんなことはどうでもよかった。今はただ彼の胸で泣きたかった。

 

終り、ハッピーエンド

 

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