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「……」

「……」

「……」

 私は、プッと吹き出した。

「なあんてね」

「は?」

「冗談よ、冗談。何、藤田君、本気にした?」

 私の態度の変わりように、藤田君はとまどっているようだ。

「冗談って、おい……」

「だめね〜、藤田君。これぐらいの冗談は慣れてるかと思ったんだけど」

「……さすがにその冗談はシャレにならんと思うが」

 藤田君は、自分を思いだしたように普段の口調に戻っていた。

「あれ、長岡さんとかなら、それぐらいの冗談やってそうだけど」

「そういやあいつそういった系統の冗談言わないなあ」

 私はクスッと笑った。

「もしかして、本当に長岡さん藤田君のこと好きなのかもしれないね」

「あいつがぁ〜」

「ほら、冗談ですましたいけど、気持ちは本当だから冗談じゃすませなくなるじゃない」

「ただあいつの場合そういう話に弱いだけだろ」

 長岡さんがそういった話に弱いとは私は思えなかったが、藤田君の方が付き合いが長いのだから 正しいのだろう。

「しかし、吉井がそんな冗談かましてくるとは……」

「意外な伏兵でしょ。藤田君騙せるなら他の男子全員だませそうね」

「やめてくれよ、そんな陰険な冗談」

「そう、藤田君がそうやって泣いてあやまるならもうしないことにするわ」

「誰がいつ泣いてあやまった」

 私と藤田君は笑いあった。

「んじゃ、俺帰るから」

「私は再試受けてる松本またなくちゃならないから」

「そうか、じゃあな」

「バイバイ」

 藤田君は扉を開けた。

「……っ!」

 私は、出かかった言葉を飲みこんだ。

 そして、藤田君は帰っていった。

 

 それは、罰でもなんでもなかった。

 私が、罰と思いたかっただけ。

 だって、嫌われた状態ではじめる恋なんて、悲しすぎるから。

 だから、罪の結果の罰なら、私は納得できると思っていた。

 最後に、私は自分の力でこれを冗談にしてよかったと思った。

 これは、片思いだ。罰とかじゃなく、私がした、単なる片思い。

 確かに悲しい恋だ。でも、罰になんかしたくなかった。藤田君を好きになったことは本当だったから。

 私は、その恋を、認めた。

 

「私って、人の前だと何でもないって顔するの得意なのよね」

「それって、人の前じゃないと、すぐ泣いちゃうって意味にも取れるかな……」

「だから、ごめんなさい、私。今まで嘘ついてて」

「私、本当は泣きたかったの」

 私は、泣いた。大きな声で泣いた。

 藤田君がおそらく学校を出るまで待っているだけで、限界だった。

 ほんのちょっとすると、その声を聞いて松本が教室に入ってきた。

「よ、吉井、どうしたの!?」

 私は、一生懸命人の前だったから、がんばった。

「何でもないの、何でもない」

「そんなわけないじゃない、どうしたの?」

 表情を作るのは失敗したようだった。でも、まあそれでもよかった。きっと藤田君にはばれて ないから。それでよかった。

 だから、松本には悪いが、少しの間私は弱いままでいる。

 

 

 あのときの吉井の言葉は、俺には冗談に聞こえなかった。

 俺は、それを聞こうとした。

『聞かないで』

 吉井の表情が拒絶の表情をしていなかったら、俺は聞いていただろう。

 あのことが、俺にはどうしてもひっかかった。

 おせっかいだと言われれば言い返せないが、あんな思いつめた表情をしたやつを、俺は放っておけない。

 今度、吉井にもう一度聞いてみよう。

 俺はそう思いながら、布団に入った。

 

 

終り、テゥルーエンド、吉井攻略可能?

 

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