エッチな意味ではない。
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現状を簡単に把握しよう。
今僕がいるのは、霊害の所為で工事が止まっている開拓地の中間点。目の前の木がうっそうと茂る山は、どうもまるまる怪異の張った結界に遮られているようである。
で、僕達は仕事のために、この山に入らなければならないのだけど。
「どうやって、こんな結界に入るんですか? 見たところ、凄く頑丈にできてるみたいなんですけど」
結界にも色々あるけれども、これは思い切り攻撃的な結界のように見える。好奇心で手を突っ込んでみたくはない。
「穴をあけて」
「…まあ、真一さんならそうなんでしょうけど」
さらりと言い切る真一さん。今更、それぐらいで驚きはしないけれど。どうせ、それぐらいのこと、真一さんにとっては朝飯前なのだろう。
僕が半分やけな気分でいると、真一さんは、それを全然察していないのか、僕に目を合わせたまま、結界を親指で指さした。
「じゃあ、やって」
「って、僕がですか?」
真一さんは、コクンと頷く。迷いも躊躇もまったくない、動きによどみさえない。
「あの、一応言っておきますけど、僕、大したことできませんよ。こんな結界に穴を開けるなんて、正直無理です」
悲しい主張だけれど、できないものはできない。根性でどうにかしろ? それこそ無理だ。やれるもんならお前やってみろ。
「そう? 主席と書いてあったのに」
う…。
まったくもって話題にふれて欲しくない内容に、真一さんは全然悪気はないんだろうけれど、足を踏み入れた。
「そうよ、優。これぐらいできるって」
光までそう言って来る。光は、僕のいつもの実力を十分わかってるはずなんだけど…はっ!
僕が、そっと光に目をやると、光はニヤニヤと笑っている。
「試験とは言っても、私に勝ったんだから、こんなの簡単よね〜」
さっきの一言で、僕も十分理解できた。真一さんは、卒業試験を見に来ていないのだ。だから、僕のあの過去を知らない。
そして当然、光もそれに気付いている。僕がそれを隠そうとしているのを含めて。
嫌らしい、というのは、何も意地が悪いというものだけではないのだ。光の場合、もう、これでもかってぐらい、性的な嫌らしさがある。
「ほれほれ、さっさとやりなさいよ。それとも、やっぱり女…」
「わーわーわーーーっ!!」
僕は慌てて光の声を遮る。
「?」
真一さんは怪訝な顔をしたけれど、言及はして来なかった。それだけは助かる話だ。光だけでも辛いのに、ここで真一さんにまで追求されたら、逃げ切れない。
「ねー、優ぅ?」
光が、しなだれかかる勢いで、僕につめよる。彼女の色素変化をしていない濡れ羽の髪が、僕のほほをくすぐるまで近づいて来ても、僕にとっては何も嬉しくない。
むしろ、このまま噛みつかれるのではないかと、僕はススッと後ろに下がった。
光は、それにちょっと不満そうな顔をしたものの、すぐに気を取り直して、僕を追いつめる。
「何なら、私が、手取り足取り、腰取り手伝ってあげても…」
「さー、やるぞー」
ことさら光を無視すると、僕は結界に手を伸ばした。光にナニされるぐらいなら、結界で第二度火傷(水泡が出来るぐらい)を負う方を僕は選ぶ。
何故なら、火傷は治るが、人生の間違いというものは、治ったりしないからだ。
「腰取り…考えただけでも…あぅんっ」と怪しげな声を出してクネクネしている光の動きが、余計に僕の決心を確かなものにする。
しかし、そうは言ったものの、どう手をつけていいのか、さっぱりわからない。結界は、それはあまりうまくは作っているように見えないけれど、それでも、出力だけは大きい。
…やっぱり、手とかつっこむと、ただじゃ済まないよなあ。
「木目のような切れ目があるから、手に霊力をつけて入れればいい」
僕の戸惑いに、真一さんは気付いたのか、簡単なアドバイスだけしてくれた。本当に簡単過ぎる。そもそも、手に霊力をつけて、なんて、僕はそんなに器用じゃない。しかし、やらないわけにもいかない。
うう、正直、こういう霊力の制御は苦手なんだけどなあ。
それを言うと、僕の得意なことなんて、あんまりないんだけど…。
…ああ、東法の同級生の中では、生活力は一、二番だったような気がする。けっこうお嬢様多いし。いや、関係はないんだけどね。
はあっ、とため息が出るが、仕方がない。僕は、手に霊力を集中させる、ために目を閉じて準備に入った。
「はーーーーーー」
大きく息を吐く。まず、普通なら身体から漏れることのない大部分の霊力を吐き出し、何とかして身体の外部にとどめる。
淡い光を発しながら、僕の微弱な霊力が、身体を覆う。
そう、ゆっくりやれば、できないことはないのだ。集中して、ゆっくり、ゆっくり…。
「時間、かかってるようだけど」
うっ!
集中が乱れて、霊力が霧散しそうになるのを、僕は慌てて立て直す。
「優は慎重なのよ」
「そうか」
「そうよ」
真一さんの言及は、悪気はさっぱりないものの、僕の胸にちくちくと刺さるし、それ以上に光は言葉はともかく、さっぱりフォローする気がないのだろう、声がにやついている。
僕がへたくそなのはどうしようもない事実だし、そもそも光にフォローを頼める訳がないのだから、最初から期待しては駄目だ。
何とか、霊力を身体にまとわせると、今度はそれを両手に集中させる。
霊力の放出も苦手だけど、この、霊力を身体の一カ所に集中させる、という行為も、僕は苦手だった。いや、東法の同級生だって、簡単に行っているのは光ぐらいなものだったけれど。
慣れない、そして限界に近い霊力操作に、僕の額にじわりと嫌な汗が浮く。
でも、これで何とか…。
「はー、ふー、はー、ふー」
息を整えながら、僕は、何とか両手に霊力を集中させるのに成功した。
「エロい息使いよね」
光の言葉は完璧無視の方向で。
僕の手にある霊力は、真一さんや光と比べれば、微々たるもので、何とも心許ない。
そして、まだ問題は残っていた。真一さんは、木目なんて言っていたけれど、そんなものが、本当にこの結界に存在するのか、とうことだ。
それは、結界にも強い部分弱い部分というのはある。でも、僕にはそれを見破るだけの魔眼も、予測をたてる経験もない。
それでも、一応目をこらしてみる。両手に集中させた霊力はすでにゆらいでいて、あまり時間はかけられない。
まったく、そんなものが都合良く…おや?
それは、あっさりと見つかった。見つかった、というよりも、たまたま目を向けた場所にそれがあった、というべきか。
神様は、とりあえずこれぐらいの危機は回避させてくれるらしかった。まったくないよりは、よほどありがたい御利益だ。
はっきりと、結界に線が通っていた。これならば、手を潜り込ませれば…。
僕は、意を決して、というか、もうあんまり霊力の集中がもたないと思って、その線に手を突っ込む。
痛いのには、慣れている。躊躇はなかった。
多少、指にビリッとした痛みが走ったが、かまわずに、僕は手を突っ込み、そのまま、結界をこじ開ける。
「あ、開けましたよ」
目視できているだろう真一さんは、驚くでもなく、すぐにその結界の穴をくぐる。僕としては、誉めて欲しいぐらいの手際の良さだったのだが、真一さんにはできて当然だったのだろう。
「…へえ?」
感心したのは、真一さんではなく、光だった。
「優、そんなことできるんだぁ。へぇ〜」
僕の横を通って結界に入る前に、光は、かなり機嫌を損ねた声で僕を誉めた。いや、誉められたわけじゃないのはわかっているのだけれど。
「ま、まぐれだよ」
光が穴に入ったのを見届けてから、僕もその中に入る。
僕が結界から手を放すと、結界はすぐにもとの形を戻す。しかし、その木目のような線だけは、消えずに残っている。
と、同時に、僕の手から霊力が霧散し、僕は疲労で、たまらずその場にへたり込んだ。
「どうかした?」
真一さんは、何の疑いもなく、へたり込んだ僕を見つめている。疲労でへたばったと言っても、この人は信じてくれない気がする。
「な、何でもないです」
何でもないわけはないのだけれど、言うだけ言っておく。大丈夫、というのは、日本人の常套語みたいなものだし。
動けない僕を狙っているのか、視線は僕に向けたまま、光が何気ない風を装って話をふる。
「こんなに簡単に入れたんじゃ、結界の意味ないわよねえ」
「穴を開けるのがうまかっただけ」
光の言葉に、真一さんが適当と言わんばかりの口調で答えたが、それは僕のことを暗に誉めてくれたのだろうか、と少しだけ希望を持つ。
しかし、それよりも、もっと重大なことに気付く。
何も、光を結界の中に入れなくとも良かったのではないだろうか? 僕が先に入って、閉めてしまえば…いや、それよりも、僕だけ外で待ってるとか…。
「光は…この結界に穴を開けられる?」
光は、「うーん」と少し考えるように、結界に手を添える。僕とは違い、あっさりと霊力を手にまとわせている。
癖である指をかむ仕草をしながら、結界の強度を測っているようだった。
「まわりのこと気にしなくていいなら、力づくで開けるのは可能よ。ま、それじゃ結界張ったヤツにばれちゃうだろうけど。そこの隙間が見つけられれば、余裕ね」
はあ、さいですか。
余裕ときたもんだ。僕の存在って何ですか?
とりあえず、分断作戦は無意味だったようだ。今度結界の張り方も研究しておこうと思った。光相手には時間稼ぎにもならないような気もするけれど。
僕は気を取り直して、森の中を見渡す。
「…別段、これと言って変なところはないような気がしますが」
結界で封じられている以外は、そこは何の変哲もない森だった。単なる、どこでもあるような山だ。例え適当に中に入り込んだとしても、迷うようなこともないだろう。
「鈍いわねえ、あっちの方から、おかしな霊力感じるじゃない」
光は、さも当然と、真一さんがじっと見つめている方向を指差す。
僕にはさっぱりわからないのだが、真一さんと光がそういうことを間違えるとは思わない。そして、結局退魔も順調に行われるような気がする。
それよりも前に、僕は一つだけ、ちゃんと確認しておかないといけないことがあった。
「あの、真一さん。退魔を行うんですよね?」
「そう」
「そうですか…」
僕は、実はあまりこの仕事には乗る気ではない。
何故なら、僕はまだ一度だって退魔を行ったことがないからだ。その経験不足を恐れていないわけじゃないけれど、問題はそこではない。
僕は、まだ一人も霊や妖怪を殺したことはないのだ。
霊はすでに死んでいるのだから、殺すとは言わないだろうけれど、僕の心情的にはそんな感じだ。
考えても見て欲しい。相手が善人であろうと殺人鬼であろうと、他の動物であろうと、自分が何かを殺すのが、気持ちがいいわけがない。
もちろん、種族という意味で言えば、かなり違うだろうし、そもそもすでにここの霊は霊害になっている。人間だって、この数を殺せば、死刑は免れないだろうし、猛獣なら、即射殺だ。
同情、ではないと思う。ただ、僕が気持ちよくないだけなのだ。それは僕の問題で、仕事には関係ないし、殺す相手のことを思っているわけでもないのだから、単なるわがままなのはわかっている。
でも、やっぱり、僕は心のどこかで躊躇していた。
そこらは、自分でもよくわからないのだ。だって、僕は、ちゃんとした目的があって、退魔士を目指し、東法に入学したのだから。
「んー、優、どうかした?」
光が、沈んだ顔に気付いたのか、すり寄ってくる。もちろん僕は距離を取りながら「何でもないよ」と言っておいた。あったとしても、光にだけはしゃべりたくない。
しかし、それはそれとしても、その前に、僕がここから生きて出られるかの方を心配した方がいいのかもしれない。
…というか、物凄く切実な問題な気が。
「で、これからどうするの? 適当に山の中回るなんて、私嫌よ」
そう言うと、真一さんの返事も待たずに、光はさっさと目を閉じて、耳を澄ます。
「んー、何か地脈がこんがらがって、よく聞こえないみたい」
何気なくやっているけれど、視覚以外を霊儀系の感覚として使うのは、凄い高度な技術だったりする。まあ、光だから、驚きはしないけれど。
「問題ない」
真一さんは、トレンチコートに手を入れると、中から、一本の竹串を取り出す。
「…竹串?」
どこからどう見ても、普通の、五十本百円とかで売っていそうな竹串だった。
あらぬ方向を向いて、真一さんは腕を振り上げる。
「
来たっ、と思って、僕は思わず頭をかかえていた。
「
カカーンッ!
真一さんの腕から放たれた一本の竹串は、金属を打ち付けるような音を立てて、閃光と化し、木々の間を、一線に打ち抜いた。
「へ…?」
さすがの光も、その光景には、唖然として口をバカみたいにぽかんと開けて見ることしかできなかったようだった。
「放っておいても、向こうから来てくれる」
真一さんはそう言いながら、両手に竹串を合計八本構える。いや、まったく霊儀処理がされているわけでもない竹串なのだけれど、真一さんが構えると、それだけで格好いいのだから、素材というものは大切である。
「『
「…」
光の吐き捨てるような言葉に、真一さんは無言で答えた。
いや、吐き捨てるなんて反応、光でしか取れない気もする。普通の精神構造の人間ならば、怖れる強さだし。
ましてや、それをその怖い人の前で言える「強さ」など、常識人にはあり得ない。
そんな強さ、僕は絶対欲しくないけれど。
「あ、優にはわかんなかったかもしんないけど」
光は、何も気付いていないらしい僕に、どこか嬉しそうにしている。僕としては、何かあったのか、と思う場面なのだけれど。
「そこらをただよってた低級悪霊を、さっきの攻撃で一掃したの、やっぱ、わかってなかった?」
「…いや、わからなかったけどさ」
さっき、一応悩んだ悪霊殺しを、こうも簡単に行われると、悩んでいいのか、困っていいのか、いや、困ってるんだけど。というか、僕にはそんな悪霊、まだ見えてなかったんだけど。
霊力がどうとかより、まず視力の問題のような気がする。
「でも、こっちの居場所、教えることになりませんか?」
真一さんのそれは、どういう原理かわからないけれど、派手な金属音と閃光を放つのだし、目立つことこの上ない。
「大丈夫」
「…」
「…」
何で大丈夫なのか、という説明はいくら待っても、まったくなかった。
代わりに、真一さんは、その場から跳躍すると、一人、森の中に入り込む。
「まい…」
僕の制止を最後まで言わせずに、獣を思わせる動きで、木々の間を駆ける真一さんの形の良いお尻が、すぐに視界から消える。
って、置いてかれた?
慌てて真一さんの後を追おうとする僕の腕を、何か柔らかいものが捕らえた。
「…光?」
光が、いつもの好戦的な表情を曇らせて、僕の腕を胸に抱きしめるように捕まえていた。真一さんにはかなわないものの、なかなかの大きさだと思う。
…じゃ、なくて。
「ねえ、優…」
いつもの、光では考えられないような弱い声で、僕を引き止める。
僕は、どう答えたものか、迷った。光にここまで完璧に捕まった日には、絶対無事には済まないのだけれど、今回は、珍しく寒気も走らない。
しかし、弱い、というのは、見た目は、というだけだ。その奥には、獰猛な何かを、光は間違いなく持っている。
「私、あいつ嫌い」
「え? 真一さん?」
それは、光としては、実に珍しい言葉だった。僕は思わず、聞き返してしまった。
光は、好き嫌いを、はっきりとするタイプだけれど、嫌いなら嫌いで、その人間の話題を、本人がいないところでは、絶対にしないのだ。
というより、話題にすら出さないと言った方がいい。そして、近くに本人がいるのに、こそっと陰口を叩くなど、光にあるまじき行為だ。
まあ、問題は、いるところ、というより、本人に向かって吐く暴言が、それは凄いんだけれど…。
とにかく、真一さんの姿が見えなくなってからそれを口にするのは、珍しい光景だった。
「私が、一番嫌いなタイプよ。それに、行動もいけすかないわ。何でかというと…」
ガバッ、と光が僕を抱きしめる、というか、抱きすくめる、というか、食虫植物を思わせる動きで、僕を捕らえる。
押しつけられた顔に感じた柔らかさよりも。
食われる!
草食獣の原始的な恐怖が、僕の身体を突き動かそうとした。
「わ…」
僕の悲鳴をさえぎったのは、例え離れていても、はっきりと聞こえる、凛とした声。
「
ズガンッ!!
激しい炸裂音と、それに付随するように広がった衝撃に、光の身体が揺れる。光の身体にさえぎられたために、僕は大した衝撃は受けなかった。
キーンとしていた耳が治るころには、光は腕を解いてくれた。
「大丈夫、優?」
「う、うん…」
そのどこか甘くも刺激的な匂いに、一瞬それが光であることを忘れそうになることよりも、僕は開けた視界に、一瞬、意識が飛んだ。
木々はその一撃で倒れ、視界が一気に開けていたのだ。
まず、横に一線、そして、それを斜めに切るように、一線。
そして、その中央では、こちらに背を向けた、トレンチコートをはためかせた、長身の女性。言うまでもない、真一さんだ。
「あ…え?」
霊儀技能にも、もちろん色々ある。昔から引き継がれた由緒正しい呪術もあれば、肉体一つを鍛えてたどり着く境地もある。
しかし、これは、この破壊は、もう、霊儀や、退魔を超えている。大霊指定されているのも、うなずける、そんな、破壊だ。
「怪我はない?」
光が、いつになく心配そうな顔で、僕を覗き込む。それでやっと、彼女が僕のことを身を挺してかばってくれたことを、僕は理解した。
「ありがとう、光。ほんとに、助かったよ」
僕をかばうようにして、光は背中に、この衝撃を直接受けたのだ。いかに相手が光でも、感謝しないわけにはいかない。そのまま僕が受けていたら、ただでは済まなかっただろうし。
「いいって、優の身体は私のもの。後から色々返してもらうし」
「…」
一瞬でも感謝した僕が、やっぱりバカだったのだろう。それは、一瞬で正しいことが、あっさりと証明される。
光は、真一さんの方を振り向くと、鬼もかくたるや、という形相で怒鳴り散らした。
「くぉら、この△△△△の☆☆☆☆☆っ!!」
青少年少女の健全な育成のために、不適切な発言には伏字を入れてお送りしております。
いきなり不当な発言で怒鳴られた真一さんは、振り向いても、眉一つ動かすことはなかった。
「危ないじゃない! 優の玉の肌に傷でもついたらどうするのよ!? これは私のよ!!」
だから、勝手に人を所有物にするのはやめようよ、本当に。
「ごめん、忘れていた」
そして真一さん、その言葉は、さすがにどうかと思いますが。
「でも、生きてる」
「当たり前よ、私は、あんなもの、ヘでもないわよ!」
まわりを見る。それはもう、これでもかというぐらい、木々は倒れ、地面はざっくりと大きな亀裂が入っている。
かばってもらってこう言うのも何だけれど、光って、やっぱり、普通じゃない。
「何、私を亡き者にするつもりなの? だったら、相手になるわよ!」
「そのつもりは、ない」
「あんたになくても、私には思いっきりあるのよ!」
平然とした真一さんと、今にも飛びかかりそうな光。それは、僕に既視感を覚えさせる光景だった。
…。
ああ、どっかで見たことがある風景だと思った。
いわゆる、怪獣大決戦、だ。ゴ○ラ対ゼッ○ンとか、何か色々混じってる気もするけど、そんな感じだ。
僕は、いそいそと、自分の身が守れる場所がないか、あたりを見渡した。
一般人は逃げまどうか、最後に意味深なセリフを言うぐらいしか、出番などないのだし。
…ああ、後、死ぬ役が残ってるっけ。
僕は陰鬱な気分になりながら、身をかがめた。
続く