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最強格闘王女伝説綾香

 

一章・始動(15)

 

「これでも私も格闘技のプロなのよ」

 由香は、こともなげにそんなことを言った。

 葵には、その言葉の真偽がすぐには分からなかった。

 確かにこんな朝早くからジョギングをする女の子などそうそういないとは思うが、葵の見たところ、 由香には背もなかったし、格闘技者としてどころか、普通に考えたって細めの葵の腕と、ほとんど 変わらないほどの腕の太さだ。格闘技のプロと名乗るには、細すぎる。

 それに、葵にはそれなりに自分の眼力に自信があった。ある程度強い者なら、その雰囲気で分かる と。自分は弱いという自覚があるだけに、その眼力にはそれだけ自信がある。

 しかし、由香からは、そんな雰囲気どころか、もとから体格がない。小さくても強い者は強いが、 それはかなり上のレベルでのことだ。やはり、身体は大きい方が有利。

 そう考えて、由香はどう見ても格闘技のプロには見えなかった。

「そうなんですか?」

 しかし、由香がそう口にしているのだから、まさか嘘をついているのではと考えるのも失礼かと 思って、葵は言葉を濁した。

「うん、葵ちゃんは中学生?」

「え……高校一年生ですけど……」

「そうなの、ごめんね〜。あ、でも、若く見られた方がいいのかな?」

「私は……昔から小さく見られるからあんまり……」

「私もそうだよ、背も高くないし、童顔だから〜」

「えっと、由香さんは高校生ですか?」

「う〜ん、これが違うんだな」

 由香はチッチッチと指をふった。

「私プロって言ったじゃない」

「てことは、高校には行ってないんですか?」

「ちょっとの間は行ってたよ。それに、そのまま行ってたとしても、もう卒業しちゃってるし」

「え?」

 葵はその言葉に驚いた。その言葉の意味を考えると……

「……由香さんって、18歳超えてるんですか?」

「私19歳だよ」

「19……歳?」

 どう見たって、高校生がいいところ。葵よりはきついが中学生と言ったって通るかもしれない。

「とてもそうは見えませんね」

「よく言われるよ」

 しかし、外見が19歳に見えないのはいいとして、何の格闘技をやっているのか葵は興味が あった。やはり格闘技と聞けば葵も黙ってはいられないのだ。

「あの、プロって一体何を……」

「あ、立ち話も何だし、走ろうか」

「あ、はい」

 由香に言われて、葵はジョギングを再会した。

「走る速度は葵ちゃんのいつものスピードでいいから。私勝手についていくし」

「そうですか、じゃあ、ちょっとここから飛ばしますね」

 葵は、いつもの神社に向かって少しスピードを上げた。

 何の格闘技をやっているのかは聞きそびれたが、葵は由香がどれぐらい自分のスピードについて 来れるのか興味があった。

 仮にもプロを名乗るのだ、葵のジョギングのスピードについてこれないようではたかが知れている。 面白い人ではあったが、葵も格闘技のこととなると厳しいのだ。

 葵がチラッと横を見ると、由香は全然平気な顔をしてついてきていた。さすがはプロと名乗るだけ あって、まだ余裕さえ見える。

 もしかして、本当にプロの人なのかな?

 いまいち葵にも確信は持てなかった。確かにかなりスタミナはあるようだが、前に言ったように 葵には由香の身体はどう見ても格闘技のプロとは思えない身体つきだった。

 格闘技を長くすれは女性であれどうしても全体的にごつい体になる。ましてやプロとなれば かなり筋肉で太くなるはずだ。

 例えば、綾香さんとか、好恵さんとか……

 ……そうとも言い切れないかな?

 葵は自分のまわりの格闘技の強い人を思い出して少しその意見を変えることにした。

 綾香はあの強さで、確かに、躍動感の感じられる体をしているが、少しも筋肉太りをしていない のだ。好恵、つまり坂下のことだが、彼女も太いというよりは、どちらかと言うと縦に長い、と言った 感じだ。スピードを殺さないために、どちらも気をつけているのだろうが、筋肉がついているイコール 強いとはその事例からもあまり考えれなかった。

「葵ちゃん、いっつも、こんなスピードで、走ってるの?」

 由香の声が途切れ途切れなのは、苦しいと言うよりはただの息継ぎのためだろう。汗はかいている ものの、苦しそうな気配は少しもない。

「はい、これぐらいは、しないと、全然、訓練になりませんし」

 答える葵も、声は途切れ途切れになる。ただ、人と一緒にジョギングをすることなどないので、 少し楽しかったりもした。

「毎日、走ってるの?」

「はい、雨の日、以外は、ほとんど、かかしたことは、ないです」

「高校生なのに、がんばるね」

「はい、格闘技、好きですから」

「部活?」

「はい、自分で、部活を、作ったんです」

「すごいね〜。私、高校生活、短かったから、部活なんて、しなかったし、うらやましいな」

「そう、ですか?」

「うん、私も、自分で、部活とか作って、みたかったな」

 降り返し地点の神社まで、もうすぐだ。葵は、スピードを上げた。が、由香は平気な顔でついて きたし、話も止めなかった。

「でも、まだ学校からは、認可されて、ないんですけどね」

 葵は、今日初めて会ったこの一風変わった人に、それをまるで親しい人に話すように話していた。

「てことは、部活動、できないの?」

「学校の、裏の神社で、やってます。ほら、そこです」

 2人は、少し息をきらせながら、神社の前で止まった。

「ハアッハアッハアッ」

「ハアッハアッハアッ」

「……調子に乗って、しゃべりながらジョギングすると、けっこうつらいね」

「そうですね」

 葵と由香はお互いに顔を合わせて笑った。

「そういや、葵ちゃんが何の格闘技してるのか聞いてなかったよね」

「はい、それに、私も由香さんに聞いてませんよ」

「あ、そうだったっけ?」

「そうですよ」

「別にもったいぶる気はなかったんだけどね、私のやってる格闘技は……」

 由香は、おもいきりもったいぶってから葵に言った。

 

続く

 

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