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最強格闘王女伝説綾香

 

二章・修練(7)

 

「準備はいい、葵?」

「は、はい!」

 どちらも拳にはウレタンナックルをつけ、綾香も軽く柔軟をこなした。

「……なあ、綾香。お前またスカートのままだな」

 浩之は綾香に耳打ちした。

「いいじゃないの、パンツぐらい。どうせここには葵と浩之しかいないんだから。浩之だって 私のパンツ見るの初めてじゃないでしょ」

 綾香には、まったく恥ずかしさはないようだ。

「……もしかして、露出狂?」

 ガインッ

 浩之の頭にとりあえず一撃入れておいて、綾香は葵に向きなおった。

「とりあえず、いつも通りの練習のように打ちこんでくればいいから。浩之が使ったフェイントを 見せるだけだから、別にレフェリーはいらないわ。というわけで、浩之、とりあえず最初の合図だけ してくれる?」

 しかし、浩之は頭を押さえたままうずくまっている。

「あの〜、綾香さん……」

 葵は、おどおどとしながら綾香に言った。

「綾香さんが拳で後頭部殴ったら、いくらセンパイでもしばらく動けないと思うんですけど……」

「そう? 浩之ってけっこう不死身っぽいところあるから大丈夫かなと思ったんだけど」

「死ぬわっ!」

 ガバッと今までうずくまっていた浩之が立ちあがった。

「ほら、元気じゃない」

「毎度毎度、人の頭ぽんぽん叩くな!」

「何言ってるの、いっつも浩之が変なこと言うからでしょ。あんまりうるさいとあることないこと 葵に言うわよ」

 その言葉は思いきり葵に聞こえているだろうが、それでも確かにあることないこと言われれば、 当然身の危険は避けれない。

「人の足元見やがって……」

「そんなことどうでもいいから、合図だけやってくれない?」

「ああ、わかったよ。いやだって言ってなぐられるのはかなわねーからな」

「人をいじめっ子みたいに言わないで欲しいわね。それを言うと、浩之なんてエロオヤジじゃない」

「……」

「あ、否定できないみたいね」

「い、いいからさっさと始めるんだろ」

 確かにエッチなことをよく言って殴られているのは確かなので、浩之は話題をそらすことにした。 今までの色々な冗談を葵にばらされでもしたら、目もあてられないことになるのは確かなのだから。

「葵ちゃんも、準備いいね」

「はい、いつでも大丈夫です」

「よし、じゃあ、お互いに構えて」

 ザッと2人は構えを取る。

「レディー、ファイトッ!」

 浩之の合図とともに、綾香が葵との距離を縮める。

 いつもなら、少しの間様子を見ている綾香だが、今回はただフェイントを見せるだけのつもり なのかいつもよりも行動が適当に見えないでもなかった。

 が、当然綾香の動きは速い……とばかり思っていたのだが……

 何故か、綾香の動きはいつもより遅かった。

 もちろん、素人からすれば十分早いのだが、いつもに比べれは数段動きが遅い。

 そのスピードのまま、綾香は軽く何度かジャブを撃つ。当然、葵はそのスピードにはついて 行けるので、全て受け流すが、何を狙っているのか分からないのが不安なのだろう、反撃はして 来ない。

 綾香は、サッと距離を取ると、浩之の方を見て言った。

「浩之のスピードってこれぐらいかな?」

「俺のスピードって、もしかして、本気で俺の動きを再現するつもりか?」

 いや、再現するとか言うよりも、浩之のスピードを分かっていたとしても、そのスピードに 自分のスピードを合わせて動かすというのは、常識外れのセンスとしか言い様がない。

「スピードぐらいは合わせた方がいいかなと思ってね。別にそっくり同じ攻撃を真似るつもりは ないけどね。で、どう、これぐらいのスピード?」

「いや、俺に聞かれても……」

 当然浩之はいつも全力でやっているつもりなので、自分のスピードがどれぐらいなのかなど 分からない。

「役にたたないわね。葵はどう思う?」

「センパイは役にたたないなんてことは……」

 綾香は苦笑した。

「違う違う、スピードのことよ。浩之の攻撃のスピードって、これぐらい?」

 葵はカアッと顔を赤くした。

「す、すみません。えと、はい、それぐらいのスピードだと思います」

 実を言うと、葵もそこまで気にしていなかったので、そのスピードが本当に浩之のスピードに 合わせているのか分からなかったが、少なくとも浩之のスピードに近いぐらいは予想できた。

「じゃあ、浩之の攻撃のリズムを真似てやってみるから。それと、スピードはこれ以上は絶対に 上げないから」

「はい、わかりました」

「じゃあ、行くわよ」

 そう言うと、綾香は、確かに葵にも分かるほど浩之と同じスピードで飛びこんできた。

 何度か綾香は攻撃するが、今の葵はただフェイントを見るためだけに、攻撃は最小限にとどめて いるし、葵自身は考えてはいないが、浩之のスピードでは、葵を捕らえ切れないのだ。

 しかし、それよりも葵は他のことに驚愕していた。

 1分ほど攻防を続けただろうか。綾香はまた距離を取った。

「だいたい浩之ってこんな感じよね。何か違和感なかった?」

「いえ、ほんとにセンパイの動きそっくりでびっくりしてるぐらいです」

 いくら綾香でも、浩之の動きをここまで真似れるとは葵でさえ思っていなかった。

 それは横で見ている浩之も同じだった。スピードはともかく、タイミングは横で見ていれば それが自分のものだとわかる。反応がまったく同じなのだ。

 綾香は、浩之が横で見ていて思うのと同じタイミングで動くのだ。それは、ほとんど浩之の 動きと同じと言ってもよい。

 しかし、だったら、綾香に浩之が勝つのはかなり難しいと言わざるおえなかった。綾香には、 浩之の動きが全て分かっているのだ。攻撃のタイミングから、打撃のスピード一つまで。

「うん、準備はOKみたいね。じゃあ、そろそろ見せるわね。よく注意しときなさいよ」

「はいっ!」

 綾香は、タンッタンッタンッとステップを踏みはじめた。葵は気付いたわけではなかったが、 浩之のリズムにかなり近い速度だ。

 その音に合わせるように、綾香は、葵との距離を縮めた。

 

続く

 

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